今回の人生において、農業について強いあこがれを持ったのは、幼少期のことなんよ。
小さい頃は、母方の親戚とおることが多かった。
ほぼ農家でゼウス系が圧倒的に多く、ベータ人の祖母がその親玉として仕切っとった。
ゼウス系の親戚は、暗黙のうちにばあさんの強さを理解しており、何かと頼りにしながら逆らおうとはせず、手下として服従しとった。
祖母も、掟破りが出んようにガンを飛ばしながら、眼光鋭く彼らを見守っとった。
嫁に行き、実家からは出たはずが、その影響力はガッツリ保持されており、石岡のおんばさまと呼ばれ恐れられた。
顔が似た姉妹の大叔母がおったんじゃけど、比べもんにならん小者に過ぎんかった。
その祖母に連れ回され、親戚中をあちこち行き来しとった私は、祖母の威光もあってか殿様待遇で、みんなよくしてくれた。
虐待されとった実家とは、雲泥の待遇の差があった。
その祖母の実家方面で、いつも私が感心したのは、親戚が山のような農産物を抱えて帰って来よることじゃった。
ゼウス系の馬力もあってか非常に頼もしく見え、それを仕切っとる祖母はさらにすげえと思うた。
祖母もそれに応えるように、時おり親戚のために何かでかいことをしでかすんじゃけど、その度に恩恵に与った親戚が、おんばさまの恩義は忘れちゃなんねぇと、ますますひれ伏した。
私のベータ人の狩猟民族としての本能は、祖母の強さと、農産物を山ほど抱えとるゼウス系親類を見た時、いつかああなりたいと思うた。
しかし、長じてみると、あれほど頼もしく見えたゼウス系親類が、祖母に比べてスカスカなことに驚いた。
また、農産物にしても機械や農薬、化学肥料に頼ることが多く、あこがれが一気に冷めてしもうた。
同じやり方を、進歩もなくただ単に踏襲しとるに過ぎんかった。
そんで、ああなるほど、こういう人達じゃけえ祖母の胆力をアテにするんじゃって納得した。
まあ、あこがれは冷めたものの、幼少期に見たあの農産物の豊かさ。
たとえそれが楽な方法でできたもんにせよ、幼少期の私が見て感心させたことは、それなりに使命は果たしてくれた。
その中でにらみを効かせる祖母の貫禄も、幼い私はすごいと思うた。
今やりよる農業も、かつての親戚の収穫量を考えながらのところがある。